#youth|ますます出会いが困難になるコロナ禍で、マッチングアプリについて考えた
8月8日に東京オリンピックが閉幕したが、開催期間中、オリンピック選手やコーチなどの関係者がマッチングアプリに溢れているという記事を見たときには非常に驚いた。
#オリンピック選手村 #LGBTQ #kemio
identity
2021/08/10
執筆者 |
西田海聖
(にしだ・かいせい)

いつか韓国とアメリカとスウェーデンに住みたい日本語しか喋れない韓国系日本人。

オリンピック選手がマッチングアプリに溢れた

8月8日に東京オリンピックが閉幕したが、開催期間中、オリンピック選手やコーチなどの関係者がマッチングアプリに溢れているという記事を見たときには非常に驚いた。マッチングアプリとは、出会いを求める男女がアプリ上でプロフィール閲覧、メッセージ交換を行い出会うことのできるサービスだとされている。この件について、Twitterで少しリサーチするだけでも、オリンピック選手とマッチング(=アプリ内でお互いに興味があることを指す)したという報告が出てくる。文春オンラインの記事に便乗して嘘をついている人もなかにはいそうだが、オリンピックの選手村でマッチングアプリが流行していたという報告に嘘はなさそうだ。もちろんコロナ禍にこうしたことは不謹慎かつ危険なことであるのは間違いがないのだが、これらのエピソードからわかるのは、マッチングアプリが、海外に旅行している最中にも積極的に利用されるほど一般化しているということである(Tinderに関しては旅行とセットで使うことを指す「Tinder Tourism」という言葉もあるそうだ)。

コロナ禍での出会いの減少

最近、マッチングアプリの広告を本当によく見かけるようになったと思う。海外のテック系の企業でもマッチングアプリが急成長したという報告もある。このマッチングアプリの普及が、コロナの感染拡大下で、今までの生活とは180度変わり、人との接触、出会いそのものが減っていることと大いに関係しているのは間違いがないだろう。新しい出会いがないと感じている人も実際多いはずだ。

【グラフ】マッチングアプリの利用率(「中日新聞デジタル」2021年7月18日)

とくにコロナが流行し始めた後の2020年4月に、新しい環境で新生活を始めた人は、その影響を大いに受けたことが想像される。筆者の周りでも「大学生になったのに(授業が)対面じゃないから全然友達ができない」と嘆いている人を何人も見た。受験勉強からやっと解き放たれて大学生活を楽しみにしていた人たちにとって、この状況はとても辛いものだっただろう。

 

マッチングアプリの利用率が伸びたことは、明らかに緊急事態宣言による自粛要請などで対面での出会いが減ったことからの必然的な結果だったと思う。友達を探しているのか、恋人候補を探しているのか、結婚相手を探しているのか、ワンナイトの関係を探しているのか、目的は本当に人それぞれだろうが、YouTuberが自身の動画でマッチングアプリの話をしていたり、最初に述べたように、オリンピック選手も使用している様子を見ていると、以前よりマッチングアプリへの抵抗感がなくなり、捉え方も変わってきたように見受けられる。カリスマモデルの代表とも言える、水原希子がマッチングアプリの最大手「Tinder」のキャンペーンCMに出ていることを見ても(正直なところ筆者は驚いたのだが)、かつては「普通の出会いがない人が使う」少し陰湿なイメージだったマッチングアプリが、若者の生活のなかで浸透しつつあるのを感じる。

 

LGBTQもストレートも出会いはますます困難に

 

ゲイである筆者は、セクシャリティにオープンな都市生活者でもないため、「出会い」が難しいことを痛感しており、マッチングアプリに自ずと関心を持たざるをえなかった。そもそも、なぜ出会いが難しいと感じているかというと、普段の生活のなかで、相手のセクシャリティが同じであるという判断が困難だからだ。今ではあまり聞かない言葉だが少し前までは「ゲイダー(=ゲイとレーダーを合成させた言葉)」という表現が使われていたように、たしかにゲイ同士が見た目や仕草、雰囲気で、ある程互いのセクシャリティを察することはできるが、やはり確信が持てないことが多い。スカートを履く男性=カミングアウトでもなく、異性の格好をしていてもストレートな人もいる。カミングアウトをしていない人は、周囲にカミングアウトしている人以上に、何かアクションを起こし、誰かと恋人関係に発展するのは難しいことだろう。

 

こうした状況から、マッチングアプリ(以前は掲示板などが主流であった)は、ゲイ界隈では必需品になっている。正直なところ、筆者は、マッチングアプリではなく、日常生活のなかでいつのまにか恋に落ち、恋愛関係に発展することに憧れていた。この悩みはインフルエンサーのkemioが繰り返し動画のなかで訴えていることでもある。しかし、kemioを観るかぎり、LGBTQに対して先進的かつ解放的なニューヨークでさえ、自然な出会いが難しいというのだから、ましてや日本の地方で難しいという事実は、現時点ではどうにもならない気がする。

遂にリアルにデートいきました(毛穴全開)/kemio/YouTube

だが、出会いが難しいのはどうやらLGBTQの人たちだけ、ということでもなくなってきているようだ。そのことにTikTokで流れてきた動画で気づかされた。

動画では「2021年に彼女作ろうとすると…」という題名のもとに、白人のストレートらしき男性が、誰かにアプローチしようと握手を求めようとすると、「男です」「年収いくら?」「女の子が好き」「ワクチンは打ったの?」とさまざまな理由で断られる様子が表現されている。筆者は、社会がより多様な生き方を許容するようになってほしいと願うため、この動画が前提とする、多様性が受容されつつある状況に対しては喜ばしい気持ちを抱く。しかし、同時に、この動画の制作者がユーモラスに表現しているように、社会が多様になっていくことで、恋愛関係の成立条件がより複雑になっていることに気づかされる。

マッチングアプリの可能性

 

このように価値観が多様化、複雑化する今、マッチングアプリ(ここではTinderのことを指す)では、登録する際に性的嗜好やマッチしたい人の性別、趣味などを選択することができる。Tinderのサービスは、選択した情報や位置情報をベースにプロフィールを繋げてくるというものだ。また自由に自己紹介できる欄も併設されていて、そこで自身のInstagramアカウントを載せたり、「ワクチン接種済み」などを記載して、信用度を上げている人もいる。また、海外では、同じ宗教観の相手を探せるマッチングアプリも人気があるらしい。なかなか外見からは窺い知れない価値観も、オンライン上では可視化されることで、目的やお互いの価値観が合う人と出会いやすくなるというのだから、今後マッチングアプリはマストアイテムになっていくのかもしれない。

 

決して美化できないマッチングアプリのリアル

 

以上のような理由から、マッチングアプリの可能性は大いにあると筆者は思う。しかし、同時に、こうしたアプリが、「純粋な出会い」とは程遠い習慣を促進している可能性があるのも確かだ。先にも述べた水原希子のTinderのキャンペーンCMが掲載されたYouTubeのコメント欄には、「美化するな」「こんないいもんじゃないよ」「ずいぶんとクリーンに宣伝して」というコメントが並んでいる。こうしたコメントが示すのは、マッチングアプリの利用者の一部が、ときめくような出会いではなく、あからさまに性的な関係を求めているという事実である。実際びっくりするほど体目的の利用者が多いのは、アプリを入れたことのある人であればわかるだろう。登録した途端にこうした利用者が群がってくるのだ。

 

ゲイの男性が女性を装ってマッチングアプリに登録した結果、「意志を持った人間ではなく性的物体として女を見る」男性の多さに驚愕したという報告もあり、反対に、体だけを求められているという事実をわかりつつもなかなかやめられないという女性もいるという。こうしたマッチングアプリをやめられない女性は、自身の存在に“いいね“がくることで承認欲求を簡単に満たしてくれるからだという。筆者が経験したゲイの出会い系アプリでよくあるのが、少し挨拶を交わした後に「何目的?」と聞かれ、「恋人探し」や「友人探し」などと答えると返事が返ってこなくなることがある。また「インスタント恋愛」と呼ばれるような、都合が悪くなったら相手を簡単に切り捨てるような恋愛も、マッチングアプリではよくあるという。言うまでもなく、こうした現象自体はマッチングアプリが普及する以前からあるものだが、助長されているという事実は看過できない気がする。

 

出会いが困難な時代に、マッチングアプリが広げてくれる可能性は大きい。しかし、個人の要望、ニーズがますます剥き出しになり、それを満たしてくれない相手を簡単に切り離すような現状には寂しさも感じる。もちろんマッチングアプリを通して結婚にまで至ったという素敵な話もあり、体の関係からはじまった恋愛もあるだろう。恋愛において、どのようなきっかけやプロセスが「正しい」のかは筆者はわからない。しかし、ひとつ言いたいのは、性的な関係だけを求めるにせよ、自分の承認欲求を満たすにせよ、相手を道具のように扱うことは許されるべきことではないのではないかということだ。

 

性的嗜好はとても大事なことであると同時に、人を大事に思うことは性的欲求と完全にイコールではないということも感じる。人間とはなんとも複雑で、その複雑さがますます明らかになる昨今だが、人を愛するということのシンプルな美しさが、マッチングアプリが興隆するなかでも残っていくといいと思う。

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2021/08/10
執筆者 |
西田海聖
(にしだ・かいせい)

いつか韓国とアメリカとスウェーデンに住みたい日本語しか喋れない韓国系日本人。

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