Z世代生理座談会 「生きやすさ」について考える はるか手前にいる日本の現状を見つめてみた
そもそも日本は性教育自体が遅れている。日本で『生理ちゃん』(2019)っていう映画がありましたけど、結局こういう情報 についてもエコーチェンバー現象が起きている感じがしていて、本当に届いてほしい、そういう性教育が必要な社会の一番虐げられてる層に全然届いてない気がします。
#フェムテック #生理 #性教育
identity
2021/12/03
座談 |
木々海々 Erie Kawai 眞鍋ヨセフ 西田海聖

木々海々|大学2年。運動音痴だがスポ根漫画が好き。アイドルとヒーローとお笑いも好き。2~2.5~3次元を反復横跳び中。


Erie Kawai|2001年生まれ。地方公立中学出身、高校で国際バカロレア取得後、西オーストラリア大学に在籍し、政治とメディア学の同時専攻する。日々海外のメディアや大学の授業を通して、日本の視点との違い注目しながら社会問題を扱う。

眞鍋ヨセフ|22歳。K-dot を敬愛する優しきHIP-HOPオタク。映画もアートも読書も好き。自称優柔不断。


西田海聖|いつか韓国とアメリカとスウェーデンに住みたい日本語しか喋れない韓国系日本人。


日本語の情報が圧倒的に乏しい


木々海々
現在さまざまなメディアで、生理やPMS の問題を解決するという観点で女性の社会進出が語られてるとは思います。ただ、それだけではなく、フェムテックなど、プラスに評価されている最近の動きを解体して再確認することによって、そして女性だけではなく、男性の視点も入れることで「女性の生きやすさ」とはどういうことなのかについて議論できればと思います。まず、皆さん一人ひとりに生理やPMS に関する認識を伺ってもいいですか?


Erie Kawai
私はピルを長らく使用していて、生理は年に何回かしかきていません。ですので、自分自身は生理について最近悩んではいません。ピルを使用し始めたきっかけは自分がもともとすごく生理が重たくて、婦人科を受診したという背景があります。しかしこれも、海外の文化を知っていたり、自分が英語ができるから生理に関する詳しい情報を知っているからできている感じなので、もどかしい思いを抱えています。


眞鍋ヨセフ
僕はまずそもそもの前提として男性で、生理を経験したことがないので、知識としてしか知らないです。現在のPMS や低容量ピルの議論であったり、性教育全般が遅れているって言われてますけど、性的同意年齢が先進国のなかで低いという問題だったり、たくさんの課題が生理関連には絡み合っていると思います。男性であっても、パートナーとの間に子どもが生まれる時など、自分に密接に関わってくることなのに、他人事のようにしか感じないことは残念ながらあると思います。僕は海外の Webサイトやニュースを見るんですけど、そこでは普通の話題として軽やかな語り口でピルの話だったり、男性側がどう配慮するのかだったりみたいな話とかされているので、単純なことですが本当に理解を深めることから始めていきたいなと思っています。

西田海聖
僕はKawai さんや、ヨセフさんみたいに海外のメディアとか積極的に見るほうではないので、今日のメンバーのなかでは一番この問題に疎いのかなと思っています。低用量ピルとかの話でも、友達とかに聞いたら「いや何か飲みたくないかな」みたいなことを言う子もいました。Kawai さんのように「生理がしんどいんやったら低用量ピル飲んだほうが絶対楽になるよ」とかっていう意識と僕の周りの意見が全然違って、そのギャップって何だろうと疑問に思って今回参加したいなと思いました。僕は生理に対しての認識とかはないんですけど、5人家族でお母さん1人だけ女性なので、生理は話題にはなりませんが、買い物を頼まれた時の品物リストにあったりはします。なので、そこまで身近に話されているというわけでもない環境なので、今回本当にいろいろと知ることができたらなっていうふうに思います。

木々海々
皆さんの話を聞いてると、日本ってまだまだ生理が話題にしにくい空気とか、その背景に学校での性教育自体の不十分さがありそうな感じがしますね。

Kawai
私はその原因のひとつに、日本語での情報不足が挙げられると思います。やはり英語のサイトのほうがピルの安全性とかだったりとか避妊などの情報が得やすいところがあると思います。例えば、IUDという月経困難症にも効果のある避妊具は、日本で婦人科にかかると、妊娠したことがある人だけに基本的には勧めるというふうになっていますが、海外では出産経験がない方でも使えるという認識です。そもそも日本は性教育自体が遅れている。日本で『生理ちゃん』(2019)っていう映画がありましたけど、結局こういう情報についてもエコーチェンバー現象が起きている感じがしていて、本当に届いてほしい、そういう性教育が必要な社会の一番虐げられてる層に全然届いてない気がします。東京か地方か、英語が読めるか読めないかでも、情報格差が相当あるように感じます。


■先進国以外でピルが普及している理由


ヨセフ
情報格差はあらゆるところにおいて大元の原因になっていて、抜本的なところを変えないと解決は難しいかなとは思うけど。低容量ピルとかについて調べると、日本だけじゃなくて中国韓国も、内服状況が5%以下なのに比べて、フィリピンとかベトナムとかタイとかは 10 %以上あったりとかして、アジアでは裕福な国ほどピルの普及率が高い、という構図が当てはまらないのがちょっと面白いなと思います。


Kawai
タイは20%に迫る勢いだったと思います。これは、タイが性に関わる医療が発達していることで有名だという背景があると思います。性転換手術の経験が豊富だったり、ホルモン剤などがオープンに安価で売られているから、ピルにも手が伸びやすいのだと思います。しかしこれはタイ特有の話であって、世界的に見れば、ピルの普及率の高さは女性がどれだけ男性に比べて仕事してるかってところに繋がっています。例えばフィリピンとかって全然日本よりも経済的には貧しいですよね。でも、女性の管理職の割合って半分ぐらいで、その点だけで言えば先進国レベルなんですよ。ただ女性の権利上の平等、女性の生きやすさが実現しているというよりはむしろ男性と同じように女性がフルタイムで働くには、ピルが必要なだけなのかもしれないとは思います。なので、ピルというのは必ずしも女性の生活を豊かにするという意味だけではなく、「飲まないとやってらんない」というところもあると思いますね。


木々海々
つまり頑張って働かないと明日どうなるかわかんないから使わざるをえないっていうことですか?


Kawai
生理を自然な状態、あの辛いままにしている場合じゃない、薬で管理しないとって感じなのかもしれませんね。生理がコントロールできるって認識さえない日本は論外ですけれども、本当に人権のことを真剣に考えている先進国以外は、ピルは働くために必要なものって感じなのだと思います。


どのような性教育を受けましたか?


Kawai
ちなみに皆さんはどのような性教育を受けましたか?


木々海々
たしか小学5年か6年かぐらいで男女一緒の授業だったはずです。記憶の限りでは。


Kawai
内容はどんな感じでしたか?


木々海々
教科書に書いてある。それで終わりだったんで、あんまり踏み込んだ内容まではやってなかったなっていうのと、それと同じような内容が中学高校でも続いたかなって感じです。ちなみに中学も高校も男女一緒でした。


ヨセフ
先進国だったら園児とか小学校の前から段階的に教育をしていくっていうのは聞いたことがあるんですけど、日本だと全然違うじゃないですか。なんか単なる事象として扱っているだけというか。これは深刻な問題だと思っています。イラストだけで説明されているなど、性に関する現象が本人の体からは切り離されている感覚がある。それは教育の方法もあると思うんですけど端的に人間に起こっていることっていう認識が生まれにくいかなって思うんですよね。


木々海々
そうですね。逆に私も男性のことについてはあまりよく知らないと思いますし。


海聖
僕は男女分かれて受けました。最初の保健体育の授業は自分の体が思春期の時にどう変化していくか、みたいなものでしたね。同じ中学に通っていた兄に聞くと、保健体育の時間はたしか中学1 年生までだったと言っていました。生理の話もされたかもしれないけど、やっぱり詳しく話されるような感じではなく、ヨセフさんが言ったみたいに客観的な事象として扱われているような感じだったらしいです。


Kawai
私も小学校の時に女子だけ保健室に連れていかれてナプキンの使い方を教えてもらったっていうのがあって。もうひとつが第二次性徴の時で、例えば脇毛が生えるとか。毛が濃くなるみたいな。身長が伸びる声が変わるといった変化を学びましたが、それは身体的な変化であって、性教育というよりどちらかというと「哺乳類の変化」という感じで、生物学的なアプローチにかなり偏っていたと思います。しかもそれがもう中学生なので、遅いと思いました。男子はたしかに半数くらいはまだ第二次性徴が始まってなかったかもしれませんが、女子に関してはほとんどが身体の変化が起きている最中。同時に、生理の話になると女子だけ集められて男子はその間遊んでるみたいな感じでした。この性教育のやり方が、男女お互いに性に関して無知すぎる原因となっていると思います。しかもその保健体育もなんか避妊は大事とかそういう話ばかりで、実際にそういう行為をする時ピルはここに行くといくらでもらえて、とか、失敗したら何をする、性被害にあったらこういう届け出をしましょうみたいな実質的な事は何も教えてもらえなかったと記憶しています。


海聖
この座談会の前に友達に話を聞いたら、日本ではまだまだ低用量ピルに抵抗感がある人がいるように感じたんですけど、Kawaiさんがピルを飲むようになったのは教育の影響はあるんでしょうか?


Kawai
日本の多くの女性がピルの服用を怖がってしまうのは、多分保健体育の教科書でピルを避妊用としてしか教えてなくて、生理を軽減させてくれる効果があるという側面をほとんど教えていないからだと思います。教育不足は避妊だけではなく中絶にしてもそうで、経口中絶薬に関しても英語の情報しかなくて困った記憶があります。来年に向けて日本が、ようやくフランスの30~40年遅れで経口中絶薬を認可するって方向で動き出しましたけど日本の妊娠中絶って、掃除機みたいなので吸うとか、鉄製のハサミで抜くとか、何十年前だよみたいなやり方をずっとやってるんですよ。それを知った時の、何て言うんでしょうね、怒り、無力さ。もうすごく腹が立って。たとえばピルだって日本で認可されたのは1999 年です。なんでこんなに婦人科系のことだけ、西洋から半世紀ぐらい遅れているんだろうと。怖いという感情的反応は絶対に無知・わからないというところからくると思うので、日本にもっと情報があるといいなと思います。情報があると冷静になれるんです。「こういうことがあって、こういうリスクがある。じゃあ私はこれにしよう」っていう選択できる。


ヨセフ
男女関係なく、性教育が足りないのは間違いないと思います。例えば男子にとって生理は未知のものだから、小さい頃はふざけてしまうと思うんですよね。変なノリを学んでしまうというか。保健体育の時間を増やすとかして、生理に対して真面目に話せるということを早い時期から知ったほうがいいと思います。なので、海外のように段階的に小さい頃から性教育をやるというのは賛成ですね。女性側は無知から恐怖心が生まれるかもしれないし、男性側は無知だと偏った知識しか得られないので。


木々海々
そうですね。ちゃんと調べたうえで「あ、これまちがっていたんだ」ってことは私自身も多いので、男性だけではなく女性までも完全にわかっていないというところがまずあると思います。最近は、市販のコンドームや生理用品などに、若い人向けの性教育がウェブで見られたりすることがありますけれど、それでもそこに辿り着くことができない人がいるので、義務教育の範囲内で教育をしていくのが大事なんだと思います。


ヨセフ
先ほど話していたようにインターネットだけだとエコーチェンバー現象に陥ってしまうと
いうか、必要な人に届かないっていうのはありますよね。


生理についての啓蒙のためには企業の力も欠かせない


Kawai
木々海々さんが指摘してくださったように、生理用品やコンドームに性教育の知識を載せるのはいいアイデアだと思います。例えば、夜用をいつもつかっているなど月経過多の場合、箱や生理用品を包んでいるパッケージに大きく「辛くないですか? 困っていたら〇〇に連絡を」とか「婦人科に受診を」と書くとか。私は教育だけでは不十分だと思うので、こういったコマーシャル的な部分に頼る必要があると思っています。例えば、小学生や中学生の時に習った理科の内容を言ってみて、と言われても覚えていないといった感じで、女子は何十年も毎月付き合うものなので身につきますが、それがない男子に教育だけで認識を広めるというのは難しいと思います。生理のCMの改善も必要で、日本の生理用品のCMって、白い服装をした女性がさわやかそうにしていて、吸水性を宣伝する部分では、青い液体が流れるなど男子からしてみたらこれは一体なんのためのものなんだろう、ってなっている。熊本の震災の被災地では生理用品が「不謹慎」や「贅沢品」などと言われたという経験を語った tweet が話題になるなど、男性の生理に対する無知が度々話題になってしまいますが、この件に限らず、男性の無知は生理の情報を頑張って避けて生まれたものではなく、普通に過ごしていてそういった発言が出ているという事実があるので、生理や性に関する教育は、公教育だけに頼らず、メディアや商品などで日々目にする、男女共に当たり前のものとして扱われた方がいいんじゃないかって思います。


ヨセフ
教育と企業の社会的責任というところがうまく噛み合う必要があるのでしょうね。生理についての情報が当たり前に周囲にある環境づくりを、公教育と企業とが協力して作り上げることが理想なんでしょうが。


生理ついてオープンではないのはアメリカも同じ?


海聖
たしかに生理について知ったり、話したりするのが「当たり前」になるのがよいと思うんです。Kawai さんが短期間ハワイで働いていた時には、そういう「当たり前」は実現していたんでしょうか?


Kawai
それが、思っていたよりオープンじゃなかったというのが正直なところなんです。


海聖
情報はいっぱいあるけど、話すことに関しては という感じですか......?


Kawai
普通のアメリカの小売会社で働いていたので、同僚はみんなアメリカ人だったのですが、普段ピルを飲んでいる同世代の同僚が、最近忙しくてピルを飲み忘れていたせいで起きてしまった生理痛に苦しんでいたので、「男性マネージャーに伝えようか?」と言いましたが、断られました。そこにはやはり年上の男性に話しづらいというところがあった感じがしました。でも女子同士で喋るとやっぱりみんないろいろ知ってるんですよね。


海聖
例えば、頭が痛い時みたいに、生理でも気軽に話せることもできれば、女性側としては助かる、というか社会で生きやすいんでしょうか? これは素朴な質問になるかもしれないですけど、女性の方が生理でつらい、となっている時に、男性側はどう対応するのがいいんでしょうか?


Kawai
日本は、恥ずかしい、言いにくいという空気が強いですが、たぶん世界で共通してあるのが、まず、生理だからとか関係なく、不調で休みたくないという前提条件で、男性だったらならないことを理由にして自分が休むっていうのが、恥ずかしいというよりも悔しい気持ちがあるのだと思います。日本は「悔しいし、言いづらい」。アメリカだと「悔しいし、男に負けたくない」みたいな。そういう違いはあるけど、でも基本両者に共通して「なんでこんな男性にない要素で、私は働かないって選択肢を取らなければいけないのか」っていう感覚があると思います。


「セルフケア」なんて言っていられるのは上澄みだけ


ヨセフ
そういう意識は緩和されつつあるんじゃないかなって思ってました。日本在住の僕は現場を知ってるわけじゃないし、もちろんそれは州や企業によっても違うのかもしれないけれど、最近は「セルフケア」「セルフラブ」が盛んに唱えられているから、そういう「なにがなんでも頑張る」みたいな習慣ななくなりつつあるのかなって思っていました。


Kawai
それはアメリカの話ですか、日本の話ですか?


ヨセフ
アメリカの話です。


Kawai
まずはアメリカは途方に暮れるほど酷い格差がある社会なので、もちろん企業イメージを上げたい大企業やテック系スタートアップ企業など、日本に入ってくる上澄みの情報を見ていれば、そういうセルフケア的な部分が重要視されているイメージが湧くのでしょうが、基本的に時給で働き最低賃金で暮らす大多数の人にとってはそれは関係のない話だと思います。


木々海々
「ご自愛」って言葉を最近よく聞くようになりましたよね。日本でもそういう意識は少しずつは変わっているとは思います。風邪薬のCM で「風邪でも、絶対に休めないあなたへ。」ってフレーズが使われなくなった★1。もちろん、自分のことを大事にしようって空気そのものはよいことだと思うんですけど、私はそれだけだと不十分だと考えています。最終的には自分も他人も関係なく、皆がよくなればいいっていうのが目標ですが、そこで「自分さえよければいい」という認識で終わってしまう人がわりといるのではないかと危惧します。


ヨセフ
その部分について、男性である僕が言うのもなんだけど、女性だけではなくて男性も巻き込んで社会構造自体を変えたりとかそういうところまで行かないといけないなって思います。さっきの話で、正社員だけがセルフケアで休めても、貧しい階級で働いてる人たちには、そういう文化が全然ない。この構造問題にどこまで食い込めるのでしょうか。


いったんネオリベ的な論調に従うのは仕方がない?


Kawai
こういう時は逆に企業の力ではなく法律の力が有効なんじゃないでしょうか。企業に頼ると、やっぱりどうしてもその企業にちゃんと貢献してくれる人とそうじゃない人に対する扱いに差が出てしまい、アメリカのようになってしまうと思うので。


木々海々
たしかにそうですね。アルバイトやパートとかだと代わりがいくらでもいるから、保護がちゃんとされないって現実がありますね。特に日本だと、学生・フリーターのアルバイトとか主婦のパートとか、安い時給で働いている層によって支えられている業界が結構ありますよね。製造とか軽作業とか接客業とか。上から下まで満遍なく保障が受けられるのがベストだと思いますけど、それを企業単位でやるのはやっぱり難しいと思います。


ヨセフ
法律を変えるっていうところまで行くには、どういうところからアクションをしていくべきだと思いますか? 法律を変えるところまで行くためにはすごい多くの人を巻き込まないとダメじゃないですか。


木々海々
そうですよね......。


Kawai
すぐに変える方法は実際にはないのかもしれません。例えば、歴史上の極端な出来事によって女性の社会進出が進んだ例はあります。ルワンダ大虐殺や、第一次世界大戦のイギリスなど、戦争のせいで男性の大多数がいなくなるとか、アイスランドで女性の半分以上がいきなり仕事をしなくなるとか。メディアによる啓蒙で進歩しているように見えるアメリカにしても、実際にはたくさんの黒人が殺されてBLMが始まったり、女性の多くが暴行を受けてから#MeToo運動が始まったり、ようやく人権に関する活動が起きている部分は否定できない気がします。結局意図せずとも命を捧げて戦ってやっと物事が動く、法律が変わるということは否定できないんですよね。暴力や過激な行動を推進したいわけではないのですが、こういう現実を振り返ると、平和なやり方をそもそも模索するのは正解なんだろうかと思ってしまいます。


ヨセフ
この問題解決は長期的なことだと思うし、だけど長期的であることを前提に「ゆっくり変えていこうよ」っていうとその間現状は苦しいままっていうジレンマはありますよね。


木々海々
現在進行形で苦しんでいる人がいるんですよ、っていうところですよね。


Kawai
そこのバランスはとても難しいですよね。ピルとか生理に関する問題も、多くの人でこの問題を共有しようという前向きなムーブメントが起きていて、それが多少女性も労働力にしようという意味で、ネオリベラリズムっぽくても、差し当たり進めていくしかないのが今の日本の現状だと思います。女性の本当の生きやすさとかを考える段階のはるか手前ですが、まずはここを通過しないといけないのかもしれない。ここでネオリベ的な広め方はやめようって言ってしまうと、そもそもピルを知らなかったっていう大前提にさえ立ててない人たちを見捨てることになりえる。だから皆でスタート地点に立つためにも、さしあたり「労働のためにピルを」みたいに宣伝されることは仕方ないのかもしれません。最初はそういった単純なメッセージで広めて、それでみんながそういう性教育とかも避妊や生理のことに対して選択肢があるんだなとか、避妊の正しい方法とか、避妊の権利はそもそも女子が持つべきで男子だけに主導権を持たせるもんじゃないっていうことをまずちゃんと理解してもらった後で、「あなたはただの労働者じゃなくってそれぞれ人生があって、基本的な人権は誰にも邪魔することはできないんだよ」っていう議論に進めていくという、この順番はなかなか変えられないかと。私たちは何十年も先をゆく北欧などの状況をインターネットで知ることができてしまうので、足元を見ずにその理想に一気に飛びたくなってしまいます。しかし、現実は、まだまだ日本には知識が与えられず、出発点にさえ立っていない人が多すぎるので、ここで私たちみたいないわゆる「意識高い系」が、出発点に立てていない人たちを無視して理想論ばかり振りかざすと、本当に助けが必要な人たちを引き離してしまうだけだと思います。


ヨセフ
フェムテックに対して僕たちが感じているかすかな違和感というのも「ネオリベっぽさ」への危惧から来ていると思います。マーケットを作ってしまえば儲かるというところばかり注目されてしまって、女性にとっての本当の生きやすさという本質的な趣旨とはずれてしまうんじゃないかと。でもそれ以前に、情報としてまだ知るべきことがたくさんあるよっていうのは、男女限らず伝えないといけないと思いました。男性も情報によって、議論できる出発点に立たないといけないと思います。議論できる男性も絶対いると思うから。


木々海々
ちょっと話はずれるんですけど、性別に基づく「生きやすさ/生きづらさ」を変えていくとい課題にネオリベが結びついているということで言えば、生理だけじゃなくて美容関連もありますよね。化粧とか整形とかする男性は受け入れられる風潮が生まれてるけど、手足の毛を剃らないとか、外出でもすっぴんとか、そういう女性はまだまだ受け入れられていない。化粧品とか整形にはお金が絡むから、それを売りたくて企業が後押ししてるのかなと、思っちゃうんですよね。


Kawai
そうだと思う。でも、一応それに反対するようなCMも出てきて、アメリカの毛剃りの企業のBillieが、「ほら!これで足がきれい ツルン♪ ♪」というのをやめて、「あなたがもし本当に毛を剃りたいって考えてるんだったら、私たちはただここで待っています」っていうメッセージで宣伝をしたことが話題になりました。「そのメッセージ性いいね!」と思ったんですけど、まぁ結局それも、いいねって言われることを期待してるマーケティングだろうなとは思います(笑)。


木々海々
以前からいろいろな場所で言われているような性教育の改善や、企業の啓蒙努力や、いわゆる「セルフケア」みたいな個人の意識の向上、生理に関する女性の状況を改善していくためにはどれかひとつでは不十分で、各々が今バラバラの動きをしている部分を、連帯させていく必要がある。その連携を実現させる論理として「労働力としての女性」という線だと、どうしてもネオリベっぽい感じが捨てきれないけれど、制度面でも意識面でも遅れている日本では、まずはネオリベ的だろうと改革を推進するしかない。頑張って改革しようとしている動きを止めてしまうと、現状維持のまま、最悪の場合はここから後退してしまうということも考えられるので、その流れを止めてはいけないというのが今回の議論の総括になるでしょうか。連携という意味で言えば、今回の話し合いみたいに、いろいろな経験をしてきた人でも、逆にあまり経験がない人でも、性別も関係なく話し合いができるような環境を、今後どれだけ作れるかが一番大事なのかな思います。だからこそ、今回のように皆で話せる場所が作れたことが嬉しいです。また今後もこのようなテーマで、継続的にいろいろな人と話していけたらと思います。

★1──「風邪でも、絶対に休めないあなたへ。」というエスタックのキャッチコピーを変
更してほしい、という署名運動
と、関連するWeb 記事
identity
2021/12/03
座談 |
木々海々 Erie Kawai 眞鍋ヨセフ 西田海聖
クラウドファンディング
Apathy×elabo
elabo Magazine vol.1
home
about "elabo"