#youth | 私たちのインスタに「#StopAsianHate」が少ないわけ
2020年の5、6月、私のインスタのストーリーは「#BlackLivesMatter」で溢れていたのに、今日のインスタのストーリーでは一向に「#StopAsianHate」を見かけない。
BLMに反応する日本人。なぜアジア人差別に声を上げないの?
identity
2021/05/21
執筆者 |
希麗
(きら)

20歳、大学3年生。滋賀県出身の台湾好きなフェミニスト。

「#StopAsianHate」<「#BlackLivesMatter」??

 

2020年の5、6月、私のインスタのストーリーは「#BlackLivesMatter」で溢れていたのに、今日のインスタのストーリーでは一向に「#StopAsianHate」を見かけない。

 

コロナが深刻化し、テレビで延々と「Stay Home」が呼びかけられていた、去年の初夏。学生生活という「人生の夏休み」のなかで夏休みを満喫するはずだった、当時大学2年生の私は実家に引きこもりながらSNSを眺めていた。その片手に収まる小さな脳=スマホから流れてくる膨大な情報のなかでも目立って取り上げられていたのは「#BlackLivesMatter」だった。

 

ジョージ・フロイドさんの事件をきっかけに白熱し、日本の若者のなかでさえ一種の社会現象を起こした「#BlackLivesMatter」。その盛り上がりは、黒人差別に対して発言しない人や声を挙げない人(=SNSに載せない、拡散しない人)は「悪」として扱われていたほどである★1。

 

一方で、「#StopAsianHate」はどうだろうか。バイデン政権に代わったアメリカでは、アジア人への差別が激化し、殺人事件に発展するなど、ヘイトクライムの増加が止まらない★2。アジア人差別への警鐘を促すために作成された「#StopAsianHate」のハッシュタグはアメリカでは拡散されたのかもしれないが、アジア人である私のSNS上で見かけることはなかった。

 

なぜ日本人は、黒人差別には敏感に反応する一方で、当事者であるはずのアジア人差別に声を上げないのか。以下において、推測される理由を列挙し、考えてみたい。

 

クールジャパンという迷信(信仰?)

 

残念ながら、「日本はアジアトップの国だ」といまだに勘違いしている人たちがいるのではないか。欧米へのコンプレックスから、「日本は世界(主に欧米)から認められている」と考えたがる人々は2021年となった現在も存在しており、実際に「クールジャパン」と呼ばれていると信じている人も存在しているように思われる。彼らはまさか、自分たちが差別している韓国人や中国人と同じように、自分たちクールジャパニーズが差別されているとは思いも寄らないのだろう。そのため、今、世界中で起きているアジアンヘイトにおいて“アジア人”への差別と言われても、当事者の問題として受け取ることができないのだ。

 

目を背けられる「アジア人女性」の見られ方

 

アジア人女性は性的に従順であるといった認識が今もなお、アメリカを筆頭に西洋社会に存在しており、これはハリウッドにおける映画の歴史からも汲み取ることができる★3。しかし、この事実を一体、どれくらいの日本人が知っているのだろうか。そもそも、日本のメディアでは、「アジア人女性」への偏見にまつわる言及がかなり少なく、ほとんどの日本国民は日本人女性がそのような見られ方をしているとは夢にも思っていないだろう。一部の日本人が東南アジア人の女性に対して性的に従順であるといった誤った認識や差別意識を持っているように、日本人女性もまた、そのような認識を受ける対象なのである。しかし、彼らは自分たちの“日本人である”という強い自尊心のためにこの事実に目を向けようとはしないように見える。

 

日本における人種差別

 

前述の通り、日本には根強く人種差別があるということは事実である。そして、日本人は、アジア人としてアジア諸国と一緒に括られることを嫌い、アジアのなかでも優秀で欧米諸国と肩を並べていると心のどこかで本気で思っている。つまり、日本において「アジア人差別」の最新版である「#StopAsianHate」★4を取り上げることは、今まで自分たちのなかに(潜在的に)ある差別心や実際に行ってきた悪行に目を向け、向き合うことになる。敗戦により苦汁を嘗め、アメリカに追い付き追い越せの一心で努力を重ね、現在の地位を獲得し、自分たちが誰よりも優秀であると勘違いしてきたのが日本人だとしたら、自身の汚点にわざわざ目を向けるはずはないだろう。

 

ファッションとしての社会正義

 

「#BlackLivesMatter」がここで日本の若者の間で拡散された背景には、黒人差別がいわば、海の向こう側の出来事であると多くの日本人は認識しており、“自分とは関係ないもの”であったからではないだろうか。自分とは関係ないからこそ差別対象者を下にみて、同情できるという点や、発信によって「自分は“考えている”」といった自己主張ができる点。そして、“憧れのアメリカ”での出来事を自身のSNSに掲載できるといったような部分にも流行した理由があるのではないかと思う。要するに「#BlackLivesMatter」は、海外の事象を通じて社会正義を訴えられる気軽なもの、当事者としてのリスクを伴わないものであり、それゆえに流行のファッションになりえたのではないか。

 

「#BlackLivesMatter」が日本で帯びたファッション性を考慮に入れるならば、今回の一連のアジア人差別において、「#StopAsianHate」のハッシュタグが流行することが必ずしも正しいとは考えられない。私たちはこのアジアンヘイトという現象、そしてアジアンヘイトを無視する日本人のなかにある、より本質的な事柄に目を向ける必要がある。

 

「隠蔽」をやめる

 

問題は、日本人の多くが、自分たちの存在が優れていると無根拠に誤認し、少しでも自分たちの自尊心を破壊されようものなら、そのプライドを脅かす根元には近寄らず、それらの存在を隠そうとする「隠蔽」の姿勢を貫き通しているといった現状にあると私は考えている。それがいつから始まったことなのかについては精査が必要だろうが、少なくとも若者の目には、私たちの偉大なる先輩方はこの姿勢を貫き通し、自身の自尊心を大いに守ってきたように見えている。この姿勢を彼らは一体いつまで続けるのだろうか。そして私たちはその姿勢を継承してしまうのだろうか。問題に目を向け、立ち向かわなければ事態は悪化するばかりだと、私たちは歴史から学んできたはずだ。

 

そもそも今日、やれ日本人だ韓国人だ、黒人だ白人だ、と人種や国籍についてとやかくいって争っている暇などないのではないか。ましてやコロナという見えない敵と対峙せざるをえないこの2021年、さまざまな境界を超えて、手を取り合って助けていかなければならない問題が山積みなのである。

日本は「クールジャパン」でもなければ、とっくの昔にアジアナンバーワンの国ではなくなっている。私たちは、私たちの時代でさっさとこの無益な人種の争いに終止符を打ち、環境や経済や公衆衛生などといった、全世界の協力を必要とする問題解決に尽力しなければならない。「隠蔽」の姿勢を継承せず、老若男女・人種・国籍を問わず手を取り合って協力していくことこそが日本を真の「クールジャパン」にする唯一の方法ではないだろうか。

★1──「リゾ、人種差別に声をあげないのは問題に加担しているのと一緒と語る」(「FRONTROW」2020年6月3日)

★2──「アメリカアジア系住民へのヘイトクライム 去年の2.6倍に」(「NHK NEWSWEB」2021年5月6日)

★3──India Roby, “Hollywood Played a Role in Hypersexualizing Asian Women,”in Teen VOGUE, MARCH 24, 2021.

★4──「#StopAsianHate」がアメリカ国内において拡散される大きな理由ともなったアトランタの銃乱射事件にはアジア人差別だけではなく、女性差別や職業差別といったさまざまな差別が絡んでいる。差別の構造は複雑である。日本において「#StopAsianHate」が拡散されない(アジア人差別に対しての報道・議論・言及がされていない)こともまた前述の3点だけが理由ではない。

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2021/05/21
執筆者 |
希麗
(きら)

20歳、大学3年生。滋賀県出身の台湾好きなフェミニスト。

写真 | Unsplash
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