#youth|TXTによるZ世代の表現
最近のK-POPボーイズグループにはジェンダーフリーな要素が増えている。以前からメイクをしているグループはいたものの、最近では女性が着るようなクロップ・トップスやスカートなど、衣服によってジェンダーフリーを表現するケースも増えてきた。
「現代の若者は、一言もしゃべらずに肩を貸してくれるようなヒーローを求めている」(パン・シヒョク)。
culture
2021/05/21
執筆者 |
西田海聖
(にしだ・かいせい)

いつか韓国とアメリカとスウェーデンに住みたい日本語しか喋れない韓国系日本人。

最近のK-POPボーイズグループにはジェンダーフリーな要素が増えている。以前からメイクをしているグループはいたものの、最近では女性が着るようなクロップ・トップスやスカートなど、衣服によってジェンダーフリーを表現するケースも増えてきた。

 

第2世代から第4世代にかけての変化

 

K-POPの世代分けについては諸説があるので一概に言うことはできないが、さしあたり以下のように整理することができそうだ★1。

 

まず第1世代としては、ソテジワアイドル、H.O.Tなどのボーイズグループ、S.E.Sなどのガールズグループ、そして1.5世代として日本でも大人気だった東方神起やBOAが挙げられる。

 

第2世代はBIGBANG、2PM、少女時代、KARAなど、近くのアジア圏(とくに日本)もマーケットにし、国内にとどまらず活躍の場を広げた世代だ。

 

第3〜3.5世代は、BTS、Red Velvet、EXO、TWICE、BLACKPINK、NCTなど、グローバルに活躍し、K-POPの文化が世界に認められようになった世代だと言われる。この時期のK-POPの普及には、SNSなどのネット文化が若者の生活に完全に溶け込んだことが大いに関係しているだろう。

 

第4世代は、K-POPファンがすでに世界中にいることが前提であるため、初めからグローバルな活動を視野に入れている世代ともいえる。ITZY、TXT、NCT、Stray Kids、TREASURE、ENHYPENなどが活躍している。本稿がジェンダーフリーファッションの例として取り上げたいのは、この第4世代のTOMORROW X TOGETHER(以下TXTと省略)というボーイズグループだ。

 

ジェンダーフリーを意識した活動か?

 

TXTは、SOOBIN(20)、YEONJUN(21)、BEOMGYU(20)、TAEHYUN(19)、HUENINGKAI(18)の5人で結成された平均年齢19.6歳(2021年5月時点)の、いわゆるZ世代の若手グループである。彼らは2020年10月に、コロナ禍の若者に宛てたメッセージとして「Blue Hour」というシングルをリリースし、青春時代のはかなさを感じさせる美しいMVを制作した。

「Blue Hour」のMVの衣装では、全体としてパステルカラーが用いられているが、クロップ・トップスのディテールが目を引く。とくにYEONJUN(ヨンジュン)が着ているピンク色のクロップ・セーターはとても印象的だ。

TXT「Blue Hour」MV.SCREENSHOT / HYBE LABELS, YouTube

 

クロップ・トップス(cropped tops)に関しては、00年代にも着用しているK-POPアイドルがすでにいたようだ。またK-POP以前の欧米のロックシーン、ポップシーンでも、男性がクロップ・トップスを纏うファッションは存在していた★2。

しかし、「Blue Hour」でTXTが着ているクロップ・トップスは、以前の着こなしとどこか違って見える。かつてのロックスターやK-POPアイドルがクロップ・トップスを着るときには、鍛え上げられた筋肉を際立たせて、魅せるスタイルが主流であった。たとえば日本でも人気のあったK-POP第2世代では、2PMが「肉食系野獣アイドル」と呼ばれていたように、以前はどちらかと言うと筋肉質な体格の男性的なボーイズグループが多かった。

しかし、ヨンジュンに代表されるTXTのクロップ・トップスの着こなしは、パステルカラー、露出しすぎない丈、柔らかい雰囲気、華奢さも残した体格などによって、明らかにマスキュリティを誇るのとは違う、どこかジェンダーレスな雰囲気を醸し出している。

このMVに「ジェンダーの壁を意識しない」という作り手の意図があったかどうか、実際のところはわからないし、筆者の深読みの可能性も存在する。そもそもTXTの衣装も、そのすべてがジェンダー・フリーを志向しているわけではない。しかし、とくにヨンジュンに関して言えば、ほかの衣装でもこうしたジェンダーフリーなファッションを試みており、それを好ましく思っているファンもTwitter上で多く見かける。

BTSやBLACKPINKがビルボードのチャートにランクインするようになり、ますますK-POPの影響力が大きくなっているなか、BTSと同じ事務所に所属するTXTがこのような動きを見せていることは興味深い。世界を意識したマーケティングから、このようなジェンダーフリーなファッションが選ばれたと予想されるからだ。そもそもK-POPは、若いリスナーの心に響く、タイムリーで親近感が湧くメッセージ性を得意としており、それが世界規模で影響力を及ぼすようになった理由とも言われている★3。TXTが表現するさりげないジェンダーフリー・ファッションもまた、2020年代を生きる世界各地の若者の関心を映しとったものなのではないだろうか。

  

肩を貸してくれるヒーロー

 

仮に、TXTが、ジェンダーについて悩んでいる若者にアプローチしているとしたら、「Blue Hour」のMVの表現は彼らにとって心地よいものだったはずだ。「BlueHour」の歌詞はジェンダーという問題に直接には触れておらず、カップルが過ごすかけがえのない瞬間について歌っている。MVでは、こうした歌詞の世界と同時に、ファッションという視覚的情報によってジェンダー・フリーというメッセージが表現されている。問題そのものに直接触れないことで、ジェンダーの流動性とは特別なものではなく、当たり前のものなのだということが、自然に伝わってくる。同様に、ヨンジュンやスビンのわずかに肌が見えるようなクロップ・スタイルは、スタンダードな価値観も尊重したうえでの「こういうスタイルもどう?」という軽やかな提案として受け取ることができる。

 

Z世代の筆者は、ヨンジュンたちのさりげない表現に共感する。他を否定し、絶対的な価値観を掲げて何かをリプレゼントする態度は、誤解ばかりを広げてしまうと思うからだ。ジェンダーというデリケートな問題について、マイノリティを代弁しようとすることは容易ではない。誤解を招くような代弁の仕方は、代弁された当事者を尚更生きづらくしてしまう可能性がある。マイノリティが抱えている問題や不安などは、実際にその立場に立たないとなかなかわからないものだ。マスメディアなどの強い影響力を持つ媒体で、ジェンダーマイノリティに関する独断的なメッセージが発信されてしまうと、すべてのマイノリティがそのように独断的なのだと、知識がない人たちに鵜呑みにされてしまう危険がある。

 

BTSやTXTを手がけるプロダクションHYBEの代表パン・シヒョクは、BTSをプロデュースするにあたり、「現代の若者が求めるヒーローとは何か」について考えたと言う★4。このテーマについて話し合った2012年(つまりBTSのデビューの前年)の会議資料には、以下のように書かれていたそうだ。「(現代の若者が求めるヒーローとは)上から目線で説教をする人ではない。むしろ、彼らは、一言もしゃべらずに肩を貸してくれるようなヒーローを求めているようだ」。TXTによるジェンダーフリーの表現は、まさに黙って助けてくれるヒーローの振る舞いと重なる。

 

今回取り上げたTXTのようなジェンダーフリー・ファッションは、メディアやSNSではしばしば見かけるようになったものの、日本の街中ではほとんど見られない。男女二元論はまだまだ根強く、表現の自由を尊重するファッション業界においてでさえジェンダーフリー・ファッションをセクシュアリティに還元するような短絡的な考え方が存在すると言われる★5。個々人はそれぞれの理由によって、自分にとって最も快適なファッションを選択してよいはずだ。TXTのようなインフルエンサーによるナチュラルな流動性の表現のなかに、新しい世代が登場し、新しい時代が実現しつつある希望を感じずにはいられない。

★1──「韓国のK-POPの歩み|伝説のグループ8組を紹介!」(「noritter」2020年2月17日)

★2──CRYSTALBELL, “K-Pop Boys in Crop Tops: A History” in Teen VOGUE, NOVEMBER 12, 2020.

★3──CRYSTALBELL, “TXT, Seo Taiji, and K-Pop's Record of Youth” inTeen VOGUE, NOVEMBER 10, 2020.

★4──E. Cha, “BangShi Hyuk Shares The Secret To BTS’s Success And His Ultimate Goal For TheGroup” in Soompi, JANUARY 7, 2018.

★5──YOSHIKOYAMAMOTO「ファッションの男女二元論にNO! 男性がスカートを選べる自由を。【アンコンシャスバイアスを探せ!】」(「VOGUE」2021年4月7日)

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2021/05/21
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(にしだ・かいせい)

いつか韓国とアメリカとスウェーデンに住みたい日本語しか喋れない韓国系日本人。

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