韓国のインディーズバンドSE SO NEON(セソニョン)の世界──競争社会のなかで少年少女で居続けること
SE SO NEONは「非適応」を受け入れることを勧めるが、同時に社会のなかで、そのように生きる重荷を「共に」背負い、未来に進もうと歌う。彼らの音楽は、未来に向けて吹く風のように私たちを導いている。
SE SO NEONによる『비적응/非適応』という名のアルバムの意味とは。
culture
2021/06/18
執筆者 |
眞鍋ヨセフ
(まなべ・よせふ)

24歳。elabo youth編集長、Kendrick Lamarを敬愛するHiphopオタク。映画、アート鑑賞、読書が趣味。

새소년 SE SO NEON 新少年

SE SO NEON(セソニョン)はSoYoon(Vo/Gt)、Hyunjin(Ba)、U-Su(Dr)で構成された韓国の3ピースバンドである★1。韓国国内のインディペンデントシーンのみならず、海外からも支持を集めており、セカンドEP「Nonadaptation」は、辛口で知られるアメリカの音楽メディアPitchforkの「2020年BEST ROCK ALBUMS 35」にも選出されている★2。韓国国内においてはBTSのRMなどがファンを公言しており、日本でも坂本龍一がライブに行くほどの熱心なリスナーであることを認めている★3。

 

SE SO NEON『여름깃/Summer Plumage(夏羽)』(2018)、『비적응/Nonadaptation(非適応)』(2020)

2021年の4月5日には、1980年代のアメリカで韓国系移民の家族が、厳しい現実にも負けずアメリカンドリームを追い求める姿を描き、世界各国の映画賞を席巻した『ミナリ』(リー・アイザック・チョン監督、スティーヴン・ユァン主演)★4と「자유/Jayu(自由)」のコラボレーションPVも公開された。

 

『ミナリ』(2021)

グラフィックやPVの演出もこなす、ボーカルSoYoonのカリスマ性、多様な音楽ジャンルに影響を受けた3ピースとは思えない重厚なサウンド、SoYoonの共感と考察を呼び起こす詩、そして、ジャンルというカテゴライズ自体に慎重な態度★5などに見られるように、SE SO NEONはバンドとして強烈なアイデンティティを確立しており、それが支持される理由のひとつになっている。

 

 

韓国のロストジェネレーション 

 

若者を中心に支持を集めるSE SO NEON。彼らを理解するうえでは、上述のような音楽的に洗練されたイメージやハイブローな側面だけではなく、韓国社会に対する彼らの距離感が重要である。

 

SE SONEONの出身である韓国には、1980年代の民主化以降、とりわけ1997年のアジア通貨危機後に、政府が積極的に新自由主義的経済政策を受け入れてきた過去がある。

 

その結果として、景気はある程度は回復したものの、企業の非正規雇用の割合が増大し、多くの若者が不安定な雇用形体で働かざるをえない状況となった。このいわゆるロストジェネレーションは「IMF世代」と言われ、最近は、不定数を意味するNに、韓国語で放棄(ポギ)の前半部の「放」を合わせた造語である「N放世代」(N포세대/エンポセデ)と呼ばれるようになった★6。

 

2020年に入ると、新型コロナウィルスによって、N放世代の状況はさらに厳しくなり、「コロナ世代」というワードも浮上しているという。新規採用の縮小が続き、さらには国内の狭い労働市場を離れて国外での就職を希望するという道もコロナによって断たれてしまったのだ★7。

 

自殺者数という点でここ2年のデータを参照すると、韓国では1日に平均約38人が自殺しており、社会におけるストレスの強さが透かし見える。この数値はOECD(経済協力開発機構)加盟国で1位であり、特に10代と20代の自殺率は、その前年に比べてそれぞれ2.7%、9.6%増加している★8。この数字の背景には、苛烈な受験戦争や就職戦争など、若者が生きざるをえない競争社会がある。SE SO NEONを理解するうえで、彼らがN放世代だという事実は、重要な要素のひとつだろう。

 

 

社会に適応できないのではなく、適応しない=「Nonadaptation」という選択

 

ボーカルのSoyoonは、「자유/Jayu」(2021)をリリースする際に、2,000人のファンに直筆した手紙のなかで、デビューしてから2ndEPである「Nonadaptation」のリリースまでの心境について、このように述べている。

 

「今までとは違った大きな世界に足を踏み入れることになって、必ずしも自分と同じ考えを持つ人ばかりじゃない、という現実を受け入れることが難しかったのか、それからの1年間は、誰かに襟を掴まれているような感覚で活動を続けていて、そんななかで作ったのが「Nonadaptation(非適応)」です。」★9

 

タイトルが「Nonadaptation」と正式に決定するまで、EPは「Maladaptive」と呼ばれていた。韓国語において、「Maladaptive」は2つの意味合いがあるという、

 

「「これは韓国語の語源の話です」と彼女は説明する。「韓国語で“非適応”の表現には2つの方法があります。1つは、誰かが何かに失敗したり、何かに適応できなかったりする状態を指します。しかし、このアルバムの韓国語のタイトルは、ある種、自分から適応しようとしない状態を意味しています。」★10

 

単に適応できないという意味での「非適応」ではなく、あえて適応しようとしない、あるいは適応したくないという意味で彼らは「非適応」という言葉を選択したのだ。その適応しない対象は、ドラムのU-Suにとっては韓国人男性の義務である兵役であり、ベースのHyunjinにとっては、個人生活から仕事上の関係まですべてを支配する韓国社会の道徳=儒教だという。

 

Soyoonは、韓国社会に生きる若者としての内面的な問いかけが「Nonadaptation」に含まれていることを認めている。

 

「この世界での自分の立ち位置はどこにあるのか? その問いかけの後、自分が世界に適応しようとしていないことに気づくのです。普通の人が消費しているものが何であっても、それは共感できるものではないという考えを私は受け入れているのです。」★11

 

この言葉からは、SE SO NEONが社会に対して取るスタンスが、単なる反抗や反発ではないことが伺える。それは社会や伝統に居場所を見つけることができず、自分が環境に適応できなくとも「適応できない自分」をそのまま受け入れるという提案だと言えるだろう。

 

Soyoonは大学に入るまで無認可のフリースクールに通い★12、大学受験まではいわゆる競争社会を経験せずに過ごしてきたことを明かしている。こうしたバックグラウンドも、SE SO NEONのオルタナティブな価値観やスタンスを育んだ要因のひとつかもしれない。

 

 

自分だけではなく「共に」明日へ進む

 

SE SONEONの最近のシングルには、現実を理解しつつも「共に」明日へ向かおうという希望のメッセージが目立つようになった。

 

「자유/Jayu(自由)」(2021)

 

 

「Jayu」のリリースに際して、Soyoonはこのように述べる。

 

「EP『Nonadaptation』で、社会で感じる混乱や恐怖感、不安を歌って考えたことは、それぞれが持っている恐怖感に向き合うことが大事だということでした。「Jayu」という曲では自由を見つけたという完結された意味よりも、自由を求めなきゃいけなくて、それが私たちをより強くしてくれるという思いを込めました。」★13

 

サビ

나는 알아 내가 찾은 별로 가자 
私は知っている、私が見つけた星に向かおう

finally I found
やっと見つけたよ

달을 썰어 이 밤을 먹어치우자 
月を切ってこの夜を食べてしまおう

it’s gonna be fine
良くなるから、きっと大丈夫だ

자유로운 날
今日は自由な感じがする

 

オフィシャルPVにおいては、人気俳優ユ・アイン★14の悲しい表情をアップで追いながら、バンドメンバーの演奏と日常のクリップが差し込まれている。曲の終盤に差し掛かると、ユ・アインの表情が徐々に強ばりつつも笑顔に変わっていき、「カット」という声と同時に

 

TAKE OFF THIS SHIRT

AND GO OUTSIDE

THE DOOR

YOU’LL FINALLY FOUND

자유(自由)

 

という自由を求めるために、一歩を踏み出そうというメッセージが打ち出される。

 

「난춘/Nan chun(亂春/乱春)」(2020)

 

 

次に2018年に作られ、2020年にリリースされた「Nan chun」を参照したい。旧字体の漢字を用いる亂春(Nan chun)は「無秩序な春」を意味している。韓国の高い自殺率という問題とも重なる内容だが、この曲に対してSoYoonは以下のように述べている

 

「もし愛する人が静かに死んでいったらどうしようと考えながら曲を完成させました。当時、誰かの死を目の当たりにしてから間もない頃でした。

 

春は多くの人にとって暖かく活気に満ちた季節と考えられていますが、一部の人にとっては厳しく感じるものかもしれない。この曲は、私も含めて、乱れた春を生きていく人たちへのメッセージなのです。」★15

 

「Nan chun」では、前半で、まず厳しい現実に対して、「負けないで、壊れないで」と歌われる。サビに向かうと、「私を抱きしめて」という表現が、リスナーの味方であることを表明する。続けて「私たち」という一人称複数によって、共に今日を耐えて、明日へ向かおうという未来に進むポジティブなメッセージが歌われる。

 

Aメロ後半

네 눈을 닮은 사랑 그 안에 지는 계절 

君の目に似ている愛 そのなかで散る季節

 

파도보다 더 거칠게 내리치는 

波よりも荒く打ち付ける(叩きつける)

 

サビ
오 그대여 부서지지마 

ああ、君は壊れないで(波に砕かれないで)


바람새는 창틀에 넌 추워지지마 

窓枠で風に当たる(けれど) 君は寒くならないで

 

이리와 나를 꼭 안자 

ここにきて 私を抱きしめて(包んでおくれ)


오늘을 살아내고 우리 내일로 가자 

今日を生き抜いて(耐えて)、私たちは明日に向かおう

 

オフィシャルPVのなかでは、ひとりの老婦人と若い女性が出てくる。若い女性のシーンでは、彼女を慰め、歌詞通りに抱擁してくれるもうひとりの女性(おそらく故人)が出てくる。別のシーンでは、その若い女性が涙ながらに海に向かい、ひとつの石を拾うが、エンディングでは、SoYoonが同じ石を抱いている。そして、その同じ石を肩に背負っているSoYoonの写真は、アルバムカバーの写真になっている。遺された人が、故人の記念として石を拾い、SoYoonはその同じ石を「共に」背負ってくれているのだと歌詞との関連で解釈することができる。

SE SO NEON「자유/Jayu(自由)」(2021)

「Nan chun」のメッセージ性が最もよくでていると思われる、ひとつの動画がある。
ODGという韓国のファミリーファッションブランドが持つYoutubeチャンネルで、新型コロナウィルスのために学校に通えず制服を着たことがなかった中学生に、SE SO NEONがライブを行う動画である。歌い出しの前にSoYoonは不安を吐露する生徒と穏やかに会話を交わし、「誰かへ、声援、または勇気を与えられる歌だと思うので、歌ってもいいですか?」と尋ね、「これからどんなことがあっても、掻き分けて進む、耐えながら進むミンソさんへ......歌います」と述べて、生徒をしっかりと見つめながら歌い出す。

「Nan chun」

(設定>字幕>自動翻訳>日本語で、日本語字幕が表示されます)

たとえ、社会に適応できなくとも「適応できない自分」あるいは「適応しない自分」をそのまま受け入れるというSE SO NEONのオルタナティブな価値観は、韓国と同様に、伝統と新自由主義の両者に根ざした競争社会を生きる日本の私たちにも訴えるものがある。

 

SE SO NEONは「非適応」を受け入れることを勧めるが、同時に社会のなかで、そのように生きる重荷を「共に」背負い、未来に進もうと歌う。彼らの音楽は、未来に向けて吹く風のように私たちを導いている。

★1──https://kprofiles.com/se-neon-members-profile/

SoYoonは1997年生まれ、Hyunjinは1996年生まれ、U-Suは1990年生まれである。旧メンバーもこのサイトから確認することができる。

★2──https://pitchfork.com/features/lists-and-guides/best-rock-albums-2020/

★3──https://girl.houyhnhnm.jp/culture/singing_everyday_life

★4──1980年代のアメリカ、アーカンソー州に移住した韓国系移民を描いたストーリー。農場で一山儲けようと目論む父ジェイコブと彼に翻弄される母モニカ、しっかり者の長女アンと心臓疾患を持つ弟デイヴィッド、そこに破天荒な祖母が加わった一家にさまざまな困難が立ち塞がる。

日本語公式サイト:https://gaga.ne.jp/minari/

英語公式サイト:https://a24films.com/films/minari

★5──http://turntokyo.com/features/__sesoneon/

このインタビューでバンドサウンドから「ジャンル」というカテゴリーを問うインタビュアーの質問に対して、意識をしていないと答える。さらにそれを受けて「ジャンルの壁を越える」という言葉でカテゴライズをしようとするインタビュアーに対して、「カテゴライズはせず自然に出てきた音楽をやっているのもセソニョンらしさなのかもしれないですね。より重要なのは、その曲ごとでの歌詞や拘っているコード、メロディだと思っていて、そっちの方がバンドらしさも現れていると思います」と述べている。

★6──https://gendai.ismedia.jp/articles/-/68295

★7──https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2020/10/post-26_1.php

★8──https://s.wowkorea.jp/news/read/271338/

★9──https://qetic.jp/music/sesoneon-210205/387446/ 

★10──https://i-d.vice.com/en_uk/article/5dmbp8/se-so-neon-are-the-new-faces-of-korean-indie-rock

★11──同じインタビューでSoYoonは、「Dong」という曲で、人前で愛情や感情を表現するときに自制するという文化的慣習に疑問を呈して「友人と道を歩いているときに、お店で音楽がかかっていると、私はどうしても踊りたくなってしまうので、「Dong」を書きました。それは私にとってはとても楽しく幸せなことなのですが、他の人からは奇妙な目で見られていて、この公共の場でやってはいけないことなのかもしれません」と述べる。加えて、2曲目の「go back」では、もし戻ろうとしたとしても、どこに戻れるのかといった社会に出た後の苦悩も表現されている。

 

Dong

 

go back

★12──https://qetic.jp/music/sesoneon-210205/387446/

★13──https://fnmnl.tv/2021/05/06/12501

★14──https://www.wowkorea.jp/profile/100336.html

★15──https://therestisnoiseph.com/get-to-know-새소년-se-so-neon/(拙訳)

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2021/06/18
執筆者 |
眞鍋ヨセフ
(まなべ・よせふ)

24歳。elabo youth編集長、Kendrick Lamarを敬愛するHiphopオタク。映画、アート鑑賞、読書が趣味。

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