あるべきものがないなら作ればいい、そして、自分の世界観にリスナーを引き込みたい
ヒップホップだから勝負しにくい。でも、だからこそ勝負しないといけないっていうことです。今だとアジア系でヒップホップで天下を取ることは不可能な気もする中で、疑いつつも取る必要があると思ってます。ヒップホップを含めたアートとして取りたい。
#Skaai #Hiphop #Art
culture
2022/08/05
インタビュイー |
Skaai

アメリカ合衆国・ヴァージニア州生まれ、大分県育ちのアーティスト。幼少期から、日本のみならず韓国、マレーシア、シンガポール、カナダ、アメリカ合衆国での滞在経験を有し、自身のアイデンティティは音楽そのものであると言わしめるほどの多様な音楽センスを持ち合わせている。2020年に、SoundCloud上での楽曲リリースを皮切りにラッパーとしての活動を開始し、AbemaTV『ラップスタア誕生 2021』ではその実力とポテンシャルを見込まれ、審査員から高い評価を得た。1st Single『Period.』では、新鋭ビートメイカーuinと共に、重層的にジャズとヒップホップの要素を取り入れ、新鮮なラップとソウルフルな歌唱力を世に知らしめた。
2022年には、BIMを客演に招きリリースしたSingle『FLOOR IS MINE』をリリースし、ジャンルを跨いだ音楽性が高い評価を得ている。

Instagram/ twitter  @skaai_theprof  

■ドイツ留学を経てアカデミア(学問)からアーティストへ

 

眞鍋

本日はアーティストのSkaaiさんにお話を伺いたいと思います。最近、日本では、Skaaiさんも出演された『ラップスタア誕生』や5月に開催されたPOP YOURSに顕著なように、ヒップホップ、ラップミュージックが若者を中心に市民権を獲得しつつある状況にあると思います。このような動きの中で、突出したスキルと知的なリリックで注目を集めているSkaaiさんに、ヒップホップと社会というテーマを中心に、インタビューをさせていただきたいと思います。まず始めに、Skaaiさんがアーティストとしての活動を始めることになったきっかけを教えていただけますか?研究者からアーティストに方向転換したきっかけや理由も伺いたいと思います。

 

Skaai

新型コロナウイルスが広がる1年ぐらい前にドイツに1年間留学をしていて、自分を見直す機会がありました。大学の時に色々活動をしていて、例えば、塾を経営してみたりとか、当時は学生団体が流行っていた時期でもあったので、特殊な環境で育った自分の生い立ちを生かせないかと思い、色々な活動をしていました。当時は、その活動ありきで生きていたところもあったので、何かガッツリ自分の意志で動くというよりも、まず組織があった上で動くみたいなところがありました。ドイツに1年間留学して日本の属性というか、そういった人間関係といったものから離れて、自分の人生を見直す機会になりました。そこで「自分は何がしたいんだろう」と考えて、クリエイティブに関心があったこともあり、ガッツリ勉強してみようと思って、1年間勉強しながら過ごしていたんですね。当時は、映画を作ることを考えていたんですけど、一朝一夕で何者かになれる訳ではないと思ってたので、本軸としては法学の研究をすることを考えていました。

その後、帰国したのが2021年の2月。ちょうど新型コロナウイルスが流行りだした時期で、3月に卒業して大学院の進学が秋からだったので、その間の半年間が暇になりました。ずっとヒップホップが好きだったし、軽くラップしてみるかという気持ちで、SoundCloudにアップしたのが始まりでした。その時は遊びで上げていた程度の気持ちだったんです。

 

眞鍋

ドイツのどの辺にいらっしゃってたんですか。ドイツ留学では、欧州のクラブカルチャーにも触れてこられたのでしょうか?

 

Skaai

ドイツのハノーファーっていう街でベルリンに近いところですね。ヨーロッパではハウスミュージックだったりとか、結構重めの4つ打ちのビートがかかるクラブが多いと思うんですけど、正直あまりハマりませんでした。ベルリンではむしろ視覚的なアート作品にたくさん触れましたね。自分の専攻は情報法だったんですけども、それ以外に文化遺産保護法にも関心がありました。自分の先生がICOMOS会長だったということもあり、その先生と一緒に美術館や博物館を回ったりして。ベルリンは興味深いところでした。

 

眞鍋

学問とアートというのはSkaaiさんの中ではシームレスに捉えられているものなのでしょうか。

 

Skaai

シームレスにとらえ始めたのはわりと最近で、もちろんアートの世界っていうものがそこにあったっていうのは知っていたし、美術館に行っても絵画を見るなりして、ああこれがアートなのかという感覚はあったんですけども、学問的にアートを眺めている時にはあまりこうグッとくるものがなかったんです。正直、それはたぶん自分の中でのイマジネーションと過去のアーティストのイマジネーションっていうのが全然違ったというか、自分と接続する部分があんまりなかったからなんですね。自分が音楽を通して表現する身になった上で、自分の作品に対する愛情を最近感じ始めて、そういった感覚からアートが身近になってきたっていうのは感じますね。研究をすることも、自分の中では小中高大と勉強をしてきた延長線上にあるものでしかなくて、自分が何かを作るというか、研究者自身が研究対象そのものを作るっていうのはしたことがなかったので、作り始めてやっとこれがアートなのかと感じ始めていますね。

 

眞鍋

ベルリンでは現代美術もご覧になったのですか?

 

Skaai

はい、観に行きました。自分が一番感銘を受けたのは現代美術だったと思います。現代美術は正解となる解釈が自明では無いので、自分の中にある何かと接続する余地があると自分は感じるんです。そこに答えがあってしまうと途端に面白くなくなっちゃうっていうのがあって。現代美術については、「もしかしたら、これはこういうことなのかもしれない」って想像を巡らせる事が重要だと思うんですけど、そこが自分の中ではまったっていうことですかね。その作品がどうっていうことよりも、現代美術の価値観に魅力を感じたっていうところですね。

 

眞鍋

日本に帰国してから、大学院に進学するまでの半年の間にSoundCloudに楽曲を上げたとの事ですが、その際には周りに音楽仲間だったり、あるいは同じような形で活動している身近な人はいたのでしょうか?

 

Skaai

自分だけですね。先輩も仲間もいませんでした。大学時代にもラップをやってる人なんていなかったし、自分自身は高校の時からずっとヒップホップを聴いていて、ふと思い立って自分でやってみようと思ったに過ぎませんでした。一番身近に居たとすれば、ゲツマニパン工場というYouTubeチャンネル★1をやっているJ★2ですね(笑)あいつがすごいヒップホップ好きだったから、自分が曲を作り始めて最初に聴かせましたが、いわゆるフッドみたいなものはありませんでした。

 

■なぜヒップホップなのか

 

眞鍋

映像や現代アートにも関心を持ったなかで、自分の表現方法としてヒップホップという選択をされたのはSkaaiさん自身が高校生の時からヒップホップを聴いてきたことの他にも理由はありますでしょうか?

 

Skaai

そうですね。自分はいわゆるヒップホップ育ちではなく、どちらかといえば、裕福な家庭で育ったかなっていう気はしています。でもやっぱり自分の中で、そもそもヒップホップだったり、ラップみたいなものって何か自分の日常生活や環境に対して不満がないとやらないかなって思うんですよね。ある種攻撃的なリリックにも寛容なプラットフォームである気がするので。自分はかなり恵まれて環境で育ちましたが、やっぱり自分と他の人が違うことだったり、その違いを意識して生きづらさを感じたり、例えば家族からの期待感といった重圧だったり、そういったものに悩まされていました。それも長く悩まされていたので、そういったものに対してメッセージじゃないけど、自分の思いをぶつける場所が欲しかったっていうのは、きっとあったんだろうなとは事後的に思います。そもそもヒップホップにハマったのは多分そういった背景があったんだと思います。自分の不満とか、こんなの面白くねぇ、みたいなものをぶつけているラッパーたちを見て格好良いなと思ったのもあるし、やっぱりどこかで自分もそうしたいと思ったのかもしれないですね。

 

眞鍋

今の質問で思い出されるのは、AbemaTVの『ラップスター誕生』でのインタビュー★3で「自分の故郷がわからない、もはやアイデンティティーっていうものも分からなくて、ラップは自分を救う手段、バランスを取る手段」ということをおっしゃっていたと思います。アイデンティティーが分からない状態から、ラップを自分を救うものという認識するに至ったのはどういうところだったんでしょうか?

 

Skaai

そうですね。いや、正直のところ自分でもよくわかんないんですよね、何で自分がラップをしているのかというのは。取り繕うことは可能なんですけど(笑)わかんないって言うか、ヒップホップって結構フッドを大事にしたりとか、アイデンティティーを大事にしたりとか、友達、仲間とかを大事にする文化があると思うんですけど、それが自分はあまりないんですよね。だからある種戦略的に「ヒップホップって本来こういう風にみんな主張してるけど、自分はそれがなくてもヒップホップをしているぜ」というポーズを取るっていうのは、確かにあるなとは思います。ただ、自分はそこまで自分の表現ツールをラップに限定しようと思っていません。世の中にはいろんなアート媒体があると思うので、そこから取捨選択してやっていこうと思っています。なので、ヒップホップに見出した、救われたというよりも、自分が表現するという姿勢に見出すっていうか、そういったところだなと思います。ただ、そのフェーズ1がラップだったっていうことですね。

 

■音楽は社会とどのように関わるのか

 

真鍋

表現と社会との関係を考えた時に、法学を研究なさっていた時にやりたいと思っていたことと、音楽を通じてやりたいことは、社会への疑問を投げかけるという意味で同じですか?

 

Skaai

そうですね、学問と音楽とで役割が違うと考えています。例えば自分が、研究者になって論文を出すことの意義と、自分の音楽を通してメッセージを伝えることの意義と、それぞれ違った影響力があって。アートだけでは国は変えられないし、立法や政策を通して一国の社会を直接的に変える力を一番持っているのは政治家だと思うし、そういったところでそれぞれ役割があるのかなと思っています。僕自身、日本の社会に対して思うことはありつつも、参政権がほぼないみたいなところで苦しめられてもいますが、実際に研究を通して論文を書くと、それが国会で扱われるかもしれないというところで間接的に国政参加できるかもしれません。ただ、それはその論文を読む層だけに限られると思います。

 

ただ、アートに関していえば、例えば、スタジオジブリの宮崎駿監督は、高度経済成長期の日本の社会に対して思っていたことを自作のキャラクターを介して表現しました。しかし、難解な表現を避け、独創的な世界観とそのパッケージングの上手さをして、作品をマス層に届けたと思うんです。そういった意味でアートの可能性はとても広いものがあるのかなと思います。

 

眞鍋

Skaaiさんの中で、探求や表現の方法を変えた一番の理由っていうのは、何でしょうか?

 

Skaai

何よりも自分は表現がしたかったっていうことですね。今の自分が表現モードであるっていうことなのかもしれないです。自分が幼い頃から海外へ行ったり、特殊な環境で育ちながら培ったものを、自分だけの色で表現することが、これまではできなかった。だけど、「自分にしか奏でられない音だったり、色っていうのがきっとあるんじゃないか」という思いがあって、現状は音楽がそれを表現するのにふさわしかった。今は自分の中でそういうモードっていうところですね。

 

なので、今はそれに集中しているっていうだけで、学術研究への関心が無くなった訳ではありません。少し脱線するかもしれないのですが、自分の初期の研究対象は、インターネットと法だったり、SNSと言論の自由についてでした。今、物理的な共同体意識というのが薄れてきた結果、インターネット上のつながりにそれを求め出している気がします。インターネットがどういうふうにそのような意識に影響をしているのかっていうのは研究対象としては、すごい面白いですよね。音楽の伝わり方もインターネットの時代に入って大きく変わってきている。そういったものがどういう社会的な働きを促しているのかというのは研究対象になりうるなとも思っています。

 

眞鍋

インターネット時代の音楽の伝わり方がまた変わっているんじゃないかとおっしゃっていましたが、Skaaiさんは今の時代にあった伝わり方というか、自分自身の届け方として、どういうことを意識していらっしゃるのでしょうか?

 

Skaai

これは音楽に限らず、あらゆる情報について同じだと思うんですけど、ある一つの情報に対して思いを馳せる時間が減ったと思うんですよね。例えば、昔は誰かと付き合ったり、結婚するにしてもお見合いだったりとか、時間をかけて段階を重ねてというのようなことが多かったと思うんですけど、今はスマホをスワイプをすればマッチできる時代じゃないですか。だから、そういったものがあらゆる情報においても同じだなと思っていて、音楽も映画もすべてその線上にあると思うんですよね。これまで以上に、より即効性のある音色、よりポップな曲調、より早いボーカル入りが求められているような気がしています。

 

そういった流れがある中で、自分は音楽やアートを、より深く掘っていかないと全ては理解できないような形にしたいなと思っています。自分の作品が時代に対するちょっとした反抗というか、アンチテーゼ的な役割を果たせればいいなと思ってます。ただ単に難解なものにしようとは思っていなくて、先ほどのジブリの例でも言った通り、表層では肌触りがいいけども、根底には深い何かがあるというのがいいですね。

 

眞鍋

ヒップホップで世界観を表現する、そこに引き摺り込む戦略というのは、ヒップホップだと具体的にはどのようなアーティストからインスパイアされたのでしょうか。

 

Skaai

主にUSのアーティストからな気がしています。タイラー・ザ・クリエイターやケンドリック・ラマー。まずタイラーって楽しそうじゃないですか。「楽しい」の最強バージョンだと思ってて、「なかったら作ればいい」の精神。それがすごく面白そうだなと思って自分はアートってすごくいいなって思いましたね。

 

眞鍋

よく聴いていたとおっしゃっていた韓国のラップはいかがでしょう?『SHOW ME THEMONEY』に衝撃を受けたとおっしゃっていましたが。

 

Skaai

フローは結構、影響を受けてるのかなという気がします。あと、もともと自分は歌も歌っていて、高校の時は路上ライブしたりしていたので、ラップにメロディーを感じるという感覚と韓国のヒップホップというのは親和性が高いと思います。わからない言語だったとしても、フローだけで全然メシが食えるという感じが韓国ラップにはあるので、そこからの影響はありますね。ただ社会への姿勢や世界観を表現していくという部分については、圧倒的にUSのアーティストから影響を受けていると思っています。

 

 

■世界観を表現するアーティスト

 

眞鍋

日本では、そういう世界観に引き摺り込んでいく表現はそんなに沢山はないと思うので、Skaaiさんがそういうアーティストになっていかれることは、日本の音楽シーンにとっても大きな希望になると思います。

 

Skaai

ヒップホップは最近日本でも結構大きい牌を取りに来つつあると思うし、すごくいいなと思っています。ポップスとかJ-popの中では、世界観を表現するアーティストが沢山いる気がします。例えば、藤井風さんはたぶん同年代で、彼はもう独自の世界観を確立していて、めちゃくちゃ大好きなアーティストです。そのようなアーティストのことは本当に尊敬していますね。音楽がうまい人、ラップが上手い人って世の中にめちゃくちゃいっぱいいますが、ちゃんとアーティストをしている人っていうのは限られていると思うので、自分でも自戒を込めて意識しています。

 

 

 

眞鍋

日本ではあらゆるジャンル、業界でそこそこのサイズのマーケットがあったために、個々のマーケット内で評価されれば食べていける状況のなかで、似たような表現が量産される結果、グローバルでスケールの大きい発想が出にくくなってしまったということが、音楽だけではなく様々な領域や産業について言われていると思います。日本で、先程おっしゃっていたようなアーティストとしての表現を目指していくために何が必要だと思われますか?Skaaiさん自身はアメリカのカルチャーからどのような示唆を得たのでしょう?

 

Skaai

アメリカの場合は、特に自国だけをターゲティングしていても、世界に勝手に広がっていくからそういう意識はないと思うんですよね。ただ、アメリカには自分でDIYしちゃえばいいじゃん感を感じるというか。なければ自分で作っちゃえばいいじゃんって言うか。自分で家建てちゃえばいいじゃん、物作っちゃえばいいじゃんという気持ちがそもそも根底にあるから、それが彼らのクリエイティビティに密接につながってるんだなと思ってますね。

 

■グローバルに聴かれるアーティストになるために

 

眞鍋

話を伺っているうちにSkaaiさんが日本で活動してくださってありがとう、みたいな気持ちになっているんですが(笑)、さまざまな言語を話せるSkaaiさんがまず日本で日本語でラップを始めたというのはやはり言葉として日本語がご自分のリリック作るのに適している感覚があったんでしょうか?

 

Skaai

日本語は大事にしたいと思っています。自分の出自が明確でないというかアイデンティティーがどこであるかが明確ではないにしろ、自分は日本で人生の半分を育ってきたので、やっぱり日本語を一番長く使ってきたし、リリシズムに凝ろうと思うと日本語の方が性に合っていると思っています。ケンドリックの楽曲を聴いていて、たまに自分の英語がチープに思えてしまうこともあります。それよりかは、自分がこれまで幼い頃から育ってきた日本語で、日本語の良さを生かしながら、ちゃんとグローバルに聴かれたいっていう部分ここは大事にしたいところですね。

 

眞鍋

グローバルに聞いてもらうという言葉がありましたが、ヒップホップを含め日本のカルチャーが洗練され、成功していくためには、どのような視点や努力が必要だとSkaaiさん自身はお考えでしょうか? Skaaiさんが戦略として考えていることも伺えればと思います。

 

Skaai

これは答えがないことなので、ちょっと断言はできないんですけど。やっぱりまずは、世界中の誰もやってないこういうことやる、誰も作ってないものを作るっていうのがまず一つあると思います。それを次はどう売るかで、そこが一番難しい部分だと思います。誰もやってないからといって、自分の作品が売れたり、評価されるってことは決してないので、それを今のマーケットに対してどうプレゼンするか。そのプレゼンの方法を模索することが大事なのかなと思います。

 

「日本のSkaaiというラッパーがこういう作品を出しました」って言ったところで、それが例えば、見たこともない楽器を使っていたとかなら評価されるかもしれないけども、そうで無い限り、その楽曲がいかに優れているのかっていうのは、正直アメリカのグラミーの審査員とかはわからないと思いますよね。だけど、それが文化的にどういう価値があって、それが日本発祥だっていうところに、どういった国際的な意味があるのかっていうのをプレゼンする必要がある。それで、それがちゃんとグローバルのマス層に聴かれるぐらい優れた音楽であるという証明ができないといけないと思いますが、それをどうするかですね。政治的に考えても、現状としてアジア人がグラミー賞を取るのは不可能に近いと思いますが、だからそこをどう可能にするかですよね。チャレンジは無料だからやるべきだなと思うし、度胸も必要ですね。

 

眞鍋

状況分析が、すごく冷静かつ客観的だなと思って聞いていたのですが、日本という場において、この作品がどういう意味合いがあって、さらにそれが世界でどういう意味があるのかっていうのは、あらゆるジャンルにおいて重要な視点だと思います。Skaaiさんの中には、シーンの先頭を行きたいとか、シーンを自分が変えるといったマインドはありますか?

 

Skaai

シーンを変えるとか、先頭を切って俺に付いてこいよとかは全く考えていなくて、もうやりたい人だけやればいいとは思ってます。自分がグローバルシーンに足を踏み入れたことで、何か感じてくれる人がいれば、それはとても喜ばしいとは思いますが。でも、多分必要条件としてセルフブランディングする能力を持たなければいけないなと感じています。例えば、メジャーでもインディーでも良いですが、レーベルに入って自分のキャリアプランというのがあらかじめ組まれていて、それをこなすだけでは難しいと思っています。何かちゃんと自分に目標があって、それに対して自分でプランを考えていく努力は怠りたく無いですね。

 

眞鍋

グローバルに踏み入れるという意味において、ヒップホップだからこそできることというか、ヒップホップっていうプラットフォームだからこそ勝負できる部分はどこにあるとSkaaiさんはお考えですか?

 

Skaai

むしろ、ヒップホップだから勝負しにくい。でも、だからこそ勝負しないといけないっていうことです。今だとアジア系でヒップホップで天下を取ることは不可能な気もする中で、疑いつつも取る必要があると思ってます。ヒップホップを含めたアートとして取りたい。そうじゃないと無理だと思います。

 

■タイラー、ケンドリック、ドレイク

 

眞鍋

今年は、ヒップホップのビッグネームの新譜が特にたくさん出てると思うんですけれども、注目している作品やムーブメントはありますか?個人的には、先程も影響を受けたと名前が出ていたケンドリックのアルバム『MR. MORALE AND BIGD STEPPERS』について伺いたいです。ケンドリックファンのelabo編集部でも相当否定的な意見が多かったので。

 

Skaai

ビッグネームのなかで注目しているのは、ケンドリックとドレイクですかね。ケンドリックの新譜に関しては、あれは音楽じゃないと思ってて。もうポエトリーいうか音付きの詩って感じだと思います。だから、これまでの既存の音楽の評価軸では、測れない気がしています。

 

自分が影響を受けたとも言えるタイラーとケンドリックについて考えてみると、タイラーはすごく政治に興味があるわけではなさそう。もちろんあるとは思うんですけど、彼の世界観の中では、政治色がダイレクトには出てこない。それでいて「エンジョイすることができる」っていう感じだと思います。ケンドリックに関しては、政治・社会色が強いですよね。なんだけど、音楽としても成り立ってるから、これまではその優れた2足の草鞋にみんな喰らってた。だけど、今回のアルバムに関しては、政治色が前面に出てきているというか、プリーチ(説教)の圧を感じます。でもやっぱりそこも惹かれる部分だし、しょうがないですね本当に。

 

 

ドレイクに関しては、彼が今やりたいことだったら、それでいいと思うんですね。ただ、バズらせにはいってないなと思いましたね。ある種ドレイクらしくなく、アルバムを通して呼んだ客演も21Savage一人だけですし、全ては最後の曲「Jimmy Cooks」に向けたお膳立てだったのかなっていう気持ちになるというか。だから、実はアルバムをガッツリ聴いてはいません。

 

 

 

正直、音楽を作り始めてから新譜を全然聴けていなくて、どちらかというと別ジャンルのアートに触れることが多くなってます。絵画、ファッションだったりとか、映画監督から聞く話の方が結構刺激になることが多いですね。新譜も別に意識して聴かないわけじゃないんですけど、自分がそちらに心が向いてないのか、それとも普通に聴いている新譜自体がつまらないものになってきているのかはわかりません。

 

■XLARGE名義でのシングル「Laws of Gravity」

 

眞鍋

XLARGE名義で『Laws of Gravity』という新曲が出たということで、コラボのきっかけや、タイトルに込めた意味、今作品に対する思いを伺えればと思います。

 

Skaai

GRADIS NICEさんが、僕が「Period.」を出した時にDMで「かっこいいね」と言ってくださって「ありがとうございます」ってやりとりをしたんですけど、その後色々なつながりがあって、今回GRADIS NICEさんとDJ SCRATCH NICEさんとXLARGEというアーティスト名義で曲をしないかっていう提案があって、作ることになりました。お二人はもう10年ぐらいニューヨークにもいらっしゃって、ニューヨークのローカルにもすごく精通していて、ビートもやっぱり黒いビートっていう印象があったので、それに、自分がリリックを乗せるっていう時にどんなメッセージがいいのかなと思って、やっぱり「強い自分が格好いい」っていう一面が欲しいなと思って、ああいうリリックを書きましたね。

 

 

眞鍋

「芦部からウェイン」というSkaaiさんにしか出せないリリックもあって、オリジナリティだけでは片付けられない味がビートも相まって出てるように感じました。あのタイトルはどういったインスピレーションといいますか、どういった経緯で出来たものですか。

 

Skaai

これは偶然ですね。パッてひらめいただけです(笑)重力の法則っていうのはlaw of gravityというのは知ってたので、それをフックに持ってきて、自分が法学部ってのもあるし、重いビートでもあるので、ダブルミーニングでいいんじゃないかっていう感じです。自分はこれまでブーンバップと言われるビートで乗ったことがなくて、単語としてもインパクトがある雰囲気にしようっていうのは思っていたので、「Laws of Gravity」にしました。

 

眞鍋

ブーンバップというビートということもあってか、今までにないアグレッシヴな歌詞と言うか、シーンに対する言及も結構あるなっていう印象を受けたんですけれども、それはこのビートだからこそという意識からのものですか?

 

Skaai

そうですね。「この曲だからこそ」もですし、いずれにしても、シーンに対しては思うことは多いので、すらすら出てきたっていう感じですね。ただ、特に意識をしてないというか。僕はシーンに対してめちゃくちゃ感謝もしてるんですけど、この曲に関してはそういうメッセージを伝えようっていう。「自分格好良いでしょ」っていうラッパーらしい表現ですね(笑)

 

眞鍋

最後に、Skaaiさんがツイッターで「今年の後半は倍面白くなるよ」と書いていらっしゃいましたが、今後の展開を教えていただけますか?

 

Skaai

倍面白くなるというのは、作品が出るということですね。実は来週にも自分名義のシングル★4が出ます。

 

眞鍋

初めてSkaaiさんを知った時から、インタビュー、作品を通じてとても知的な方だと感じていたのですが、お話を伺って、想像をさらに超えて、クール且つ客観的にご自身を含め、ヒップホップシーン全体を捉えていらっしゃると思いました。同時に、「DIY精神」というキーワードが出たと思いますが、決して冷めているのではなく、ないものは自分で作ればいいという、能動的で大胆な姿勢に力付けられます。本日は本当にありがとうございました。


★1―― https://www.youtube.com/channel/UC1upJoY27iZNaa4slQNtolA

★2―― https://twitter.com/john_renya?s=20&t=tlxQoDKNps7ZQ6UBTOYKyQ

★3―― https://www.youtube.com/watch?v=2Q5xu2vYH_s

★4―― 7月13日リリースのシングル「FLOOR IS MINE feat. BIM」リンクツリーはこちら

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2022/08/05
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Skaai

アメリカ合衆国・ヴァージニア州生まれ、大分県育ちのアーティスト。幼少期から、日本のみならず韓国、マレーシア、シンガポール、カナダ、アメリカ合衆国での滞在経験を有し、自身のアイデンティティは音楽そのものであると言わしめるほどの多様な音楽センスを持ち合わせている。2020年に、SoundCloud上での楽曲リリースを皮切りにラッパーとしての活動を開始し、AbemaTV『ラップスタア誕生 2021』ではその実力とポテンシャルを見込まれ、審査員から高い評価を得た。1st Single『Period.』では、新鋭ビートメイカーuinと共に、重層的にジャズとヒップホップの要素を取り入れ、新鮮なラップとソウルフルな歌唱力を世に知らしめた。
2022年には、BIMを客演に招きリリースしたSingle『FLOOR IS MINE』をリリースし、ジャンルを跨いだ音楽性が高い評価を得ている。

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インタビュアー |
眞鍋ヨセフ

24歳。elabo youth編集長、Kendrick Lamarを敬愛するHiphopオタク。映画、アート鑑賞、読書が趣味。

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